2003年 イギリス ロンドン

当時、留学生ビザで、週20時間まで働けたので、語学学校の後に日本食レストランでアルバイトをしていました。また、韓国人の彼氏とラッセルスクエアというエリアに住んでいました。ラッセルスクエアはホルボーンというハイソな中心街に位置する駅と、キングスクロスというターミナル駅の中間地点にありました。ホルボーンはロンドンのまさに中心街で、家賃も高いハイクラスエリアなのに対し、キングスクロスは栄えているにもかかわらず薄汚れていて、「治安が悪い」と有名なエリアでした。ラッセルスクエアは治安的にも、その両駅の中間に位置するエリアでした。私はある日、バイトで21時ごろにキングスクロス駅でバスを降りました。私のフラットは、ラッセルスクエアよりもキングスクロス寄りにあり、交通の便としても、栄えているキングスクロスに止まるバスはたくさん出ていました。そこから歩いて5分ほどのフラットに帰る道は、街灯があるにもかかわらず薄暗く(イギリスの街頭は日本よりも大概薄暗い)、人気がありませんでした。しかし、ロンドンに来て半年という、「ここの土地にも慣れてきた」という驕りと、「いつもここを通っていても何も起きない」という習慣に対する安堵が、間違いでした。その日は、帰り道の途中にある協会の前で、中近東系の若い男の子たち数人がたむろしていました。ラッセルスクエアのような、セントラルに近く家賃が安めの治安の悪いエリアには、中近東系の移民がたくさん住んでいたのです。私は彼らの前を通らないと、家に帰れません。さすがに怖くなった私は、携帯をいじって、知人とメールをやり取りするふりをしながら彼らの前を通り過ぎようとしました。その時、私の前に一人の青年が立ちふさがり、角材と思しき棒切れを振り上げて私に襲い掛か等としたのです。私はあまりの恐怖に、立ちすくんで、声も出ませんでした。「終わりだ」と思いました。しかし、すぐさま別の青年が彼を止めに、私と彼の間に割って入ってきました。私のつたない英語力でも分かった彼らのやり取りを要約すると、割って入った青年は、角材を持った青年に「やめろ」と説得し、角材の青年は「こいつ(私)が携帯をいじっていかにも自分たちを警戒するのが気に食わない」といったようでした。それをなだめすかし、私に向き合った二人目の青年は「ごめんね、こいつも悪気はないんだ」といったようでした。ことなきを得て、無事に家に帰宅できた私でしたが、翌日から遅くなるシフトの日は、彼氏にキングスクロス駅まで迎えに来てもらうようにしました。どの国に行かれるにしても、慣れてきた頃の安心感が最も危険です。治安が悪いといわれるエリアを歩くときや日が落ちてから歩く時などは、自分を過剰に過信せずに、常に危険と隣り合わせにあると思って行動されることをお勧めします。